仕事で撮影
仕事で撮影に行った下北沢のライブハウスでは、大体4、50人が踊り狂っていた。23時を
過ぎた頃には200人を超える予定らしい。
派手なライティングと爆音、汗とアルコールに酔って声を上げる人間たちは、壁1枚隔て
た現実から避難してきているようだった。
音楽にかき消されて聞こえないものの、どの顔にも笑みが浮かんでいる。
ただし、先のない笑顔だ。
彼らは今以前と今以降を必死に記憶の空間からどこか違う宇宙に追いやって笑っているよ
うに見えた。
受付で名乗ると奥に通された。
すぐ隣のホールが嘘のような静けさだった。
やはりあの空間はリアルじゃないんだと確信した。
細長い脚を放り出してソファに座っている男は、こちらをちらと見て、興味なさげに持っ
ている銀色の缶を口元に運んだ。
私はこの男を撮りに来た。
「こんばんわ、」
挨拶をして名乗る。
こちらを見ようともしない対称は
「今日はよろしくお願いします。」と締め括られた私の言葉に
「ああ、」と小さく頷くだけだった。
定型文を殆ど一息で、そしてそこから何も発展させることはしなかった。
態度の悪い男の気持ちは、一言も発することなく酒を煽り続ける様子を見れば理解に足り
た。
同じ匂いがした。
あのホールと、私と。
一般に取り繕うべき空気を、私も彼もそのままにしておいた。
このあとホールに飲まれてしまえば上手くいくからだ。
男は話をするだろうし、音楽をかけて踊るだろう。
私は笑うだろうし、踊る彼を何百枚、何千枚も撮るだろう。
仕事場はここじゃないと、二人はわかっていた。
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2011年12月23日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:体験談

